管理職の行動変容はなぜ起きないのか—「知っているのに変わらない」3つの理由 | 株式会社エヴリック
single.php

コラムcolumn

管理職の行動変容はなぜ起きないのか—「知っているのに変わらない」3つの理由

1on1が大事だとわかっている。部下の話をもっと聞くべきだともわかっている」

それでも、現場の管理職は変わらない——。 人材育成に携わる方であれば、こうした状況に覚えがあるのではないでしょうか。

eラーニングを導入し、自席でいつでも学べる環境を整えた。受講履歴を見れば、管理職自身の学習は確かに進んでいる。自主性を尊重して、資格取得も費用補助で奨励している。 なぜ、そこまで環境を整えても、行動が変わらないのか。

結論から言えば、問題は管理職の意欲や資質ではありません。行動を阻む3つの構造的な壁があるからです。本稿では、その壁の正体を整理し、行動変容が実際に起きた企業の共通点を解説します。

「行動変容」とは何か研修後に本当に求められていること

まず、言葉の整理から始めます。

「行動変容」とは、学んだ内容を現場の行動として実践し、それが習慣として定着することを指します。

研修を受けること(インプット)と、現場で行動が変わること(アウトカム)は、別のことです。

受講時間や資格の取得数は「どれだけ学んだか」を示す指標です。 しかし企業が本当に必要としているのは、管理職が現場で実際に行動を変えること——「部下から改善提案が増えてきた」「部下が自分から動くようになった」「指示の出し方が変わった」といった変化です。

この2つの間に、多くの企業が気づいていない大きなギャップがあります。

管理職が「知っているのに変わらない」3つの理由

行動変容が起きない理由は、管理職本人の意欲や資質の問題ではないことがほとんどです。

多くの場合、以下の3つの要因が重なって生じています。

① スキルとして身についていない

「コーチングの概念は知っている」と、「実際の1on1でコーチング型の問いかけができる」は、まったく別のことです。

研修で一度学んだだけでは、知識は「理解した気がする」段階にとどまります。 実際のミーティングで使えるスキルになるまでには、練習と振り返りの繰り返しが必要です。

スキルの習得において重要なのは、2つの経験です。講師が実際に手本を見せること、そして自分の行動に対して適切なフィードバックをもらうこと。この2つがあって初めて、「こうやればいいのか」という実感が生まれます。

フォローアップの場で小さな成功体験を積み重ねることで、管理職は自信を持って現場で使おうと思えるようになる。それが、知識をスキルとして定着させる道筋です。

②「やるべき」とわかっていても優先度が上がらない

部下との1on1を増やすべきだ、フィードバックをもっとしなければ——管理職はそれを頭では理解しています。

でも、日々の業務に追われているうちに後回しになる。

これは怠慢ではなく、「内面のブレーキ」がかかっている状態です。

「任せたほうがいいとわかっているが、自分でやった方が早い」 「部下に厳しいことを言って関係が悪くなるのが怖い」 「そもそも自分のやり方で本当に正しいのか自信がない」

こうした意識の壁は、研修の場では表面化しにくく、個人の内面に深く根付いているため、知識学習だけでは取り除くことができません。

重要なのは、こうした内面のブレーキを本人が自覚していないケースが多いという点です。 「自分は変わろうとしている」と思っていても、無意識のうちに行動にブレーキをかけていることは珍しくありません。

やりたくてもできない構造がある

1on1をやりたいが、週の業務が詰まっていて時間が取れない」

これは多くの管理職が直面している現実です。

個人の意欲があっても、組織の構造や職場文化が変わらなければ、行動は変えられません。

上司から「成果を出せ」というプレッシャーだけがあり、育成に使える時間や裁量が与えられていなければ、管理職はいつまでも目先の業務を優先するしかないのです。

また、「そもそも対話文化がない」「上の世代がやっていない」という職場では、管理職が一人だけ新しい行動を試みることへの心理的なハードルも高くなります。 「浮いてしまうのではないか」という不安が、変化を抑制するのです。

「真面目な管理職ほど変わりにくい」という現実

ここで一つ、注目しておきたい逆説があります。

成果への責任感が強く、仕事に真面目な管理職ほど、行動変容が起きにくい場合があるということです。

完璧主義の傾向が強い管理職は、「できるかどうか自信のないことは試さない」という行動パターンが出やすくなります。

こうしたケースでは、本人が「自分は変わる必要がある」と気づいていないことが多く、問題が深刻化しやすいという特徴があります。

では、何があれば行動は変わるのか

ここまでの3つの壁を整理すると、行動変容に必要なのは以下の3点がセットであることがわかります。

  • 知識・スキル:研修などで学ぶ場(ただしロールプレイや演習を含む実践的なもの)
  • 内面への働きかけ:何がブレーキになっているかを個別に引き出す対話の場
  • 継続的なフォロー:現場での実践を振り返り、軌道修正できる仕組み

特に重要なのは、2つ目の「内面への働きかけ」です。

集合研修では全員に同じ内容を届けることはできますが、「なぜこの人が動けないのか」という個別の事情には届きません。

「部下に任せたいが踏み出せない管理職」と「時間がなくて手が回らない管理職」では、必要な介入がまったく異なります。 3つの壁のどれが高いかは人によって違うため、画一的なプログラムだけでは限界があるのです。

一人ひとりが抱えるブレーキを取り除くためには、人と人が向き合う対話の場——1on1コーチングのような仕組みが必要になります。

行動変容が起きた企業に共通していたこと

実際に管理職の行動変容が起きた企業の事例を見てみましょう。

弊社で行動変容のお手伝いをさせていただいた建設資材メーカーの丸藤シートパイル株式会社では、研修制度がゼロの状態からプログラムを導入しました。

導入前は、「上が決めたことを下が実行する」という受け身文化が定着しており、経営・管理職・現場の間に断絶が生じていました。

導入後は、管理職が自発的に部下との1on1を始め、「部下の内面を初めて意識できた」という気づきが多数生まれました。

導入責任者の矢部常務は、こう述べています。

「研修単体の3倍の効果があった。コーチングの伴走があったからこそ、研修で学んだことが現場の行動に変わっていった」

また、弊社で1on1の導入によって管理職の関わり方が変わった別の事例では、離職率が19.8%から1.1%にまで改善した実績があります。管理職の行動が変わったことで部下の主体性が引き出され、現場からの提案数が7倍になった事例も生まれています。

これらに共通するのは、研修単体で終わらせず、学びを現場の行動に接続する仕組みを組み込んだ点です。

まとめ

管理職の行動変容が起きない理由は、管理職の怠慢や資質の問題ではありません。

  • スキルとして身についていない
  • 内面のブレーキがかかっている
  • やりたくてもできない構造がある

この3つの壁が重なっているからです。

そして、これを解消するためには、知識を届けるだけでなく、個別の対話と継続的なフォローを組み合わせた設計が必要になります。

「研修はやっている。でも変わった実感がない」——そう感じているなら、何を学ばせるかではなく、どうやって現場の行動に接続するかを問い直すタイミングかもしれません。

管理職の行動変容を進めるための具体的なアプローチや、社内での稟議の通し方については、別の記事で詳しく解説しています。自社の取り組みについてご関心のある方は、お気軽にご相談ください。

筆者プロフィール

株式会社エヴリック
シニアコンサルタント
山田敬三

 研修プログラム開発や人材育成(おもに仕組み化や標準化)、また、これらの研修プログラム・育成手法のコンサルティングを担当。2017年度コンタクトセンター・アワードにて「経験学習の観点で取り組む人材育成 ~継続的な管理者育成プログラム『PLATOS』」で最優秀ヘルプデスク/アウトソーシング部門賞を受賞。また、第14回日本e-Learning大賞では「高齢者応対研修」eラーニングサービスの開発で厚生労働大臣賞を受賞。

公開日:2026年7月24日