コラムcolumn
管理職のパワハラはなぜ起きるのか?3つの要因と企業が取るべき対策
近年、企業におけるパワーハラスメント(以下、パワハラ)は深刻な経営課題の一つとなっています。
従業員の離職、職場の生産性低下、企業ブランドの毀損、さらには訴訟リスクにまで発展するケースも珍しくありません。
特に問題となりやすいのが「管理職によるパワハラ」です。
部下を指導する立場である管理職は、職務上の権限を背景に言動が強くなりやすく、意図せずパワハラと受け取られてしまうことがあります。
では、なぜ管理職のパワハラは起きるのでしょうか。
本稿では、法的知識と現場の実態の両面から、その原因と企業が取るべき対策について解説します。
職場におけるパワハラとは何か
職場におけるパワハラとは、職務上の立場や人間関係の優位性を背景として、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、相手の就業環境を害する行為を指します。
本人に悪意がなくても、相手が精神的・身体的苦痛を感じれば該当する可能性があります。
企業にとって重要なのは、パワハラは単なる個人間の問題ではなく、組織全体の問題として扱われるという点です。
現在では、企業にはハラスメント防止のための体制整備や再発防止措置が義務付けられており、対応を怠れば企業責任が問われます。
パワハラ防止法が求めるもの
いわゆる「パワハラ防止法」(労働施策総合推進法の改正)は、すべての企業に対してパワハラ防止措置を義務付けています。
この法律の特徴は、加害者個人を処罰することではなく、企業の管理責任を問う点にあります。
つまり、パワハラが発生したかどうかだけでなく、
- 相談窓口が機能していたか
- 再発防止策を講じていたか
- 組織として適切に対応したか
が重要になります。
また、パワハラかどうかの判断は「意図」ではなく「行為と影響」で行われます。
「指導のつもりだった」「悪気はなかった」という主張は、必ずしも免責にはなりません。
厚生労働省が示すパワハラの6類型
パワハラは主に以下の6つに分類されます。
-
身体的な攻撃(暴力など)
叩く、突き飛ばす、物を投げつけるといった身体に直接危害を加える行為です。
近年は減少傾向にありますが、発生した場合は重大な問題として扱われます。 -
精神的な攻撃(暴言、人格否定など)
怒鳴る、侮辱する、人格を否定する発言をする、他の社員の前で繰り返し叱責するなど、言葉や態度によって精神的苦痛を与える行為です。
最も相談が多く、深刻化しやすい類型とされています。 -
人間関係からの切り離し(無視、孤立)
会議に呼ばない、必要な情報を共有しない、意図的に無視するなど、職場内で孤立させる行為です。
直接的な攻撃がなくても、長期化すると大きな心理的負担になります。 -
過大な要求(遂行困難な業務)
明らかに終わらない量の仕事を短期間で課す、経験のない業務を十分な支援なしに任せる、過度な残業を前提とした指示を出すなど、実行不可能または不合理な要求をする行為です。 -
過小な要求(能力を発揮させない配置)
本来の職務から外し単純作業のみをさせる、仕事を与えず放置するなど、能力や経験に見合わない低い業務しか与えない行為です。
表面的には穏やかに見えても、キャリア形成を阻害する点で問題となります。 -
個の侵害(プライバシー侵害)
私生活への過度な干渉、家庭事情や病歴の詮索、本人の同意なく個人情報を共有するなど、業務と関係のない領域に踏み込む行為です。
企業の相談窓口に寄せられる内容をみると、身体的な攻撃よりも、言葉や態度による精神的な攻撃が圧倒的に多いのが実情です。
現場で最も多いのは「精神的な攻撃」
パワハラに関する相談では、怒鳴る、人格を否定する、他者の前で繰り返し叱責する、といったケースが最も多く見られます。
注目すべきは、こうした言動を行う管理職が、必ずしも乱暴な性格の人物とは限らない点です。
むしろ、
- 仕事に対して非常に真面目
- 成果志向が強い
- 自分にも他人にも厳しい
- 責任感が強い
といったタイプが多く見られます。
つまり、問題は人格ではなく「マネジメントの方法」にある場合が少なくありません。
なぜ管理職のパワハラは起きるのか
パワハラは、一部の特殊な人だけが起こす問題ではありません。
多くの場合、次の3つの要因が重なって生じます。
-
判断基準がアップデートされていない
「自分が若い頃はもっと厳しかった」
「これくらいは普通だ」
こうした過去の経験を基準にした判断は、現在の職場環境や法令とズレている可能性があります。
働き方や価値観が大きく変化した現代において、かつて許容されていた言動がハラスメントと認定されるケースは少なくありません。
-
感情のコントロールができない
部下のミスや期待とのギャップに直面したとき、怒りや焦りが先に立ち、強い言葉や態度として表出してしまうことがあります。
特に、業績責任を負う管理職はプレッシャーが大きく、冷静さを保つ余裕を失いがちです。
結果として、指導ではなく感情の発散になってしまうことがあります。
・適切な伝え方を知らない
改善を求めたいという意図はあっても、どう伝えればよいか分からず、結果として威圧的な表現になってしまうことがあります。
例えば、
- 否定的な言い方しか思いつかない
- 相手の立場を考慮した表現ができない
- 建設的なフィードバックの方法を知らない
といった状況です。
悪意がなくても、伝え方によっては相手に強い心理的負担を与えてしまいます。
「真面目な管理職ほど危険」という現実
特に注意すべきなのは、成果への責任感が強い管理職ほど、パワハラを起こすリスクが高まる場合があることです。
期待と現実のギャップが大きいほど、焦りや苛立ちが強くなり、言動が過激になりやすいからです。
また、部下の育成を真剣に考えるあまり、過度に厳しい指導になってしまうこともあります。
こうしたケースでは、本人に自覚がないことが多く、問題が深刻化しやすいという特徴があります。
パワハラを放置すると企業に何が起きるか
パワハラは個人間の問題にとどまりません。
放置すると組織全体に以下のような影響を及ぼします。
- 優秀な人材の離職
- 職場の心理的安全性の低下
- 生産性の低下
- 管理職への不信感の増大
- 採用ブランドの毀損
- 法的リスクの増大
またパワハラが発生するリスクだけでなく、反対にパワハラを恐れて管理職が指導を避けるようになると、組織の統率力そのものが低下します。
企業が取るべきパワハラ対策
効果的な対策は、単なる禁止ではなく、管理職が適切なマネジメントを実践できるよう支援することです。
継続的な教育と意識づけ
一度の研修だけでは行動は変わりません。
法的知識、具体事例、望ましいコミュニケーション方法などを継続的に学ぶ仕組みが必要です。
管理職への個別支援
既に問題が起きている場合、全体研修だけでは不十分です。
個別の行動改善を支援するプログラムが有効です。
- 自身の言動の振り返り
- 感情マネジメントの習得
- フィードバックスキルの向上
- コーチングによる行動変容
これらを組み合わせることで、再発防止につながります。
パワハラ防止は「組織の質」を高める取り組み
パワハラ対策の本質は、単に問題を減らすことではありません。
管理職が適切に指導し、部下が安心して能力を発揮できる環境を作ることです。
その結果として、
- 生産性の向上
- 人材定着
- 組織の信頼関係の強化
といったポジティブな効果が生まれます。
まとめ
管理職のパワハラは、特定の人の資質によるものではなく、知識や感情コントロール、コミュニケーションスキルの不足が重なって生じることが多い問題です。
企業が取るべき対策は、管理職をルールで縛ることではなく、適切なマネジメントができるよう支援する仕組みを整えることにあります。
パワハラ防止はリスク管理であると同時に、組織力を高める重要な経営施策です。
今こそ、自社の管理職育成のあり方を見直すことが求められています。
また、管理職の行動変容は、知識の提供だけでは十分ではありません。
感情のマネジメント、判断基準のアップデート、伝え方の習得などを総合的に支援する仕組みが必要です。
当社では、管理職の実践的な行動改善に焦点を当てた支援プログラムをご用意しています。
自社の状況に合わせた取り組みについてご関心がありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。
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筆者プロフィール
株式会社エヴリック
代表取締役社長 岸川 茂
大学卒業後、不動産会社営業職を経て、大手コールセンター、BPO企業に入社。
1,000名規模のアウトバウンドセールスセンターのマネジャーとしてキャリアを積んだ後、人材部門の責任者に就任。自らが受けたコーチングにより、自身の行動や思考に大きな変化が起きたことに感銘を受け、本格的にコーチングの学習を開始する。
その後、社内研修やマネジャー達との1on1セッションにより社内にコーチングを浸透させる傍ら、外部企業への研修や経営者、マネジャーへのコーチングを実践。2019年4月株式会社エヴリックを設立、代表取締役に就任。
国際コーチング連盟認定プロフェッショナルコーチ(PCC)
(一財)生涯学習開発財団認定マスターコーチ
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