コラムcolumn
なぜ管理職はイライラしてしまうのか 感情のコントロールができない管理職に共通する心理メカニズム
前回のコラムでは、「管理職のパワハラはなぜ起きるのか」というテーマで、管理職によるパワーハラスメントが発生する背景について解説しました。
管理職によるパワハラは、一部の攻撃的な人だけが起こすものではありません。仕事に真面目で、責任感が強く、成果への意識が高い管理職ほど、知らず知らずのうちに強い言葉や態度を取ってしまうことがあります。
前回の記事では、管理職のパワハラが起きる主な要因として、次の3つを挙げました。
1つ目は、判断基準がアップデートされていないこと。
2つ目は、感情のコントロールがうまくできないこと。
3つ目は、適切な伝え方を知らないことです。
今回は、この中でも「感情のコントロールがうまくできない」という点に焦点を当てます。
管理職が部下に対して強い言葉を使ってしまう場面では、多くの場合、その直前に「怒り」「焦り」「苛立ち」といった感情が生じています。では、その感情はどこから生まれるのでしょうか。
怒りの感情は「出来事」そのものから生まれるわけではない
部下がミスをした。
報告が遅れた。
以前注意したことを、また繰り返した。
期待していた水準に達していなかった。
このような出来事に直面したとき、管理職がイライラしてしまうことは珍しくありません。
しかし、怒りの感情は「出来事そのもの」から直接生まれるわけではありません。同じ出来事が起きても、人によって反応は異なります。
例えば、部下が提出期限を守らなかったとします。
ある管理職は、「何度言えば分かるんだ」と強い怒りを感じるかもしれません。一方で、別の管理職は、「何か事情があったのかもしれない」「仕組みに問題があるのかもしれない」と考えるかもしれません。
この違いを理解するうえで参考になるのが、心理学の分野で知られているABC理論です。ABC理論では、人の感情や行動は、出来事そのものではなく、その出来事をどのように受け止めたかによって生まれると考えます。
Aは出来事、Bはその人の信念や考え方、Cはその結果として生じる感情や行動を指します。
例えば、「部下が計画通りに仕事を進めていない」という出来事があったとします。このとき、「立てた計画は必ず守られるべきだ」という考えを強く持っていると、「イライラする」「強い口調で叱責する」という反応が起こりやすくなります。
つまり、怒りの直接の原因は、部下の行動そのものだけではありません。その行動を見たときに、自分の中にある「こうあるべきだ」という考えと現実との間にズレが生じることで、怒りの感情が生まれるのです。
この「こうあるべきだ」という考えを、ここではビリーフと呼びます。ビリーフとは、その人が大切にしている信念、価値観、思い込み、固定観念のことです。
ビリーフそのものが悪いわけではありません。むしろ、「約束は守るべきだ」「仕事には責任を持つべきだ」「顧客には誠実に対応すべきだ」といった考えは、仕事をするうえで大切な価値観です。
しかし、そのビリーフが強くなりすぎると、現実との不整合が起きたときに、強い感情反応が生じやすくなります。
「そんなことはありえない」
「普通はできるはずだ」
「この立場なら当然分かっているべきだ」
このように捉えた瞬間、管理職の中で怒りや苛立ちが大きくなり、それが強い言葉や態度として表れてしまうのです。
管理職がイライラしてしまう代表的な場面
当社では、管理職のハラスメント行動の改善支援や、管理職向けの研修・コーチングを行っています。その中で見えてくるのは、パワハラにつながりやすい管理職の怒りには、いくつかの共通したパターンがあるということです。
ここでは、代表的な3つの例を紹介します。
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部下の能力が、求める基準に達していない
1つ目は、部下の能力が、管理職の求める基準に達していないと感じる場面です。
管理職は、自分の経験や職場で求められる水準をもとに、部下に対して一定の期待を持っています。
「この年次なら、これくらいはできて当然だ」
「この等級の社員であれば、この職務要件は満たしているべきだ」
「この役割を担っているなら、ここまでは自分で判断できるはずだ」
このような基準そのものは、マネジメント上必要なものです。しかし、部下の実際の能力や行動がその基準に達していないとき、管理職の中で強い苛立ちが生じることがあります。
例えば、「この等級の社員であれば、職務要件としてやらなければいけないことができていない」と感じる場面です。
このとき、管理職の中には「できて当然なのに、なぜできないのか」という思いが生まれます。その思いが強くなると、部下の現状を冷静に分析する前に、「やる気がないのではないか」「甘えているのではないか」と決めつけてしまうことがあります。
その結果、指導ではなく、責める言葉になってしまうのです。
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自分が大事にしているポイントに対して、部下の温度感が低い
2つ目は、管理職自身が大事にしている価値観や仕事上のポイントに対して、部下の温度感が低いと感じる場面です。
例えば、「締め切りは守るべき」「顧客の要望には応えるべき」「重要な数字は押さえておくべき」といった価値観です。
こうした価値観は、管理職自身がこれまでのキャリアの中で大切にし、成果につなげてきたものでもあります。だからこそ、部下が同じ温度感で行動していないように見えたとき、強い違和感を覚えます。
例えば、「担当者であれば業務の重要指標は把握しておくべきなのに、把握できていない」という場面です。
管理職からすると、「なぜそんな重要なことを押さえていないのか」と感じます。さらに、注意をしても部下があまり重く受け止めていないように見えると、苛立ちはより強くなります。
ここで起きているのは、単なる知識不足や行動不足への不満だけではありません。管理職が大切にしてきた仕事の姿勢が、部下に軽く扱われたように感じることによる感情的な反応です。
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過去に注意やフィードバックをしたことが繰り返される
3つ目は、過去に注意やフィードバックをしたことが、再び繰り返される場面です。
これは、多くの管理職が強い怒りを感じやすい典型的なケースです。
例えば、部下の行動に問題があり、管理職が面談の時間を取り、丁寧にフィードバックをしたとします。本人もその場では反省の言葉を述べ、「次から気をつけます」と言っていた。それにもかかわらず、また同じことを繰り返した。
例えば、「提出書類は期限内に出すよう注意したにもかかわらず、期限を過ぎても提出がない」というケースです。
このとき、管理職の中には、単なる怒りだけでなく、無力感や裏切られたような感覚が生じることもあります。
「自分は時間を取って向き合ったのに」
「本人も分かりましたと言っていたのに」
「ここまで言っても変わらないのか」
このような思いが重なると、次に部下と向き合うときには、最初から感情が高ぶった状態になりやすくなります。その結果、冷静に原因を確認する前に、「一体どういうつもりなんだ」「本気で直す気があるのか」といった強い言葉が出てしまうのです。
「自分が何とかしなければ」という思いが、怒りを強めることもある
ハラスメントにつながる言動を起こしやすい管理職には、もう1つ共通する傾向があります。
それは、「自分の部下のことは、自分がすべて責任を負わなければならない」というビリーフを持っていることです。
もちろん、管理職が部下の育成や成果に責任を持つことは重要です。しかし、その思いが強すぎると、「自分がこの部下を何とかしなければならない」という抱え込みにつながります。
部下が思うように変わらないと、「自分の指導が足りないのではないか」「このままではチームの成果に影響が出る」「もっと強く言わなければ変わらないのではないか」と、管理職自身が追い詰められていきます。
つまり、パワハラにつながる言動の背景には、「部下をつぶしたい」という悪意ではなく、「何とかしなければ」という過剰な責任感がある場合も少なくありません。
だからこそ、管理職本人の人格を責めるだけでは、根本的な解決にはなりません。必要なのは、その人がどのようなビリーフを持ち、どのような場面で感情が高ぶりやすいのかを理解することです。
次回の後編では、こうした怒りの感情に振り回されず、パワハラにつながる言動を防ぐために、管理職がどのように自分のビリーフを捉えなおせばよいのかを解説します。
筆者プロフィール
株式会社エヴリック
代表取締役社長 岸川 茂
大学卒業後、不動産会社営業職を経て、大手コールセンター、BPO企業に入社。
1,000名規模のアウトバウンドセールスセンターのマネジャーとしてキャリアを積んだ後、人材部門の責任者に就任。自らが受けたコーチングにより、自身の行動や思考に大きな変化が起きたことに感銘を受け、本格的にコーチングの学習を開始する。
その後、社内研修やマネジャー達との1on1セッションにより社内にコーチングを浸透させる傍ら、外部企業への研修や経営者、マネジャーへのコーチングを実践。2019年4月株式会社エヴリックを設立、代表取締役に就任。
国際コーチング連盟認定プロフェッショナルコーチ(PCC)
(一財)生涯学習開発財団認定マスターコーチ
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