組織力強化はなぜ進まないのか? 新規事業に向けて管理職の自発的な挑戦を引き出すには | 株式会社エヴリック
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コラムcolumn

組織力強化はなぜ進まないのか? 新規事業に向けて管理職の自発的な挑戦を引き出すには

「経営方針で組織力強化を掲げているのに、部門を越えた協力が進まない」
「新しい事業や取り組みが、管理職から自発的に出てこない」

既存事業の売上と利益は限界が見えている。環境の変化に対応する新しい挑戦を生み出したい。

そんな経営課題を抱える方は少なくありません。

管理職に期待したいのは、上司の指示を待つことではありません。
他部門と連携しながら、自ら新しい挑戦を考え、動き出すことです。

では、なぜ動き出せないのでしょうか。意欲や資質の問題なのでしょうか。

原因の多くは、管理職が無意識に持っている「明文化されていない価値観」にあります。
例えば、
「失敗するリスクを負うより、確実に成果を出すべきだ」
「新しいことは上が決め、上の責任で進める方が安全だ」
という価値観です。

この価値観は、これまで既存事業を支える中で育ってきたものです。
ただ、その価値観が、部門を越えた挑戦を生まれにくくしていることがあるのです。
そして、その価値観を裏支えしているのが、人事評価や承認権限といった制度やルールです。

本記事では、まず管理職が自らの暗黙の価値観に気づき、新しい行動や連携を自ら試していく。
そのための進め方を、6つの問いに答える形で整理します。

Q1.なぜ、管理職は自ら新しい挑戦に動き出せないのか?

管理職が動き出せないのは、やる気がないからではありません。

むしろ、自分の責任を誠実に果たそうとしている人ほど、動けなくなっています。

製造部門なら納期と品質。営業部門なら売上と顧客対応。どの管理職も、自部門の責任を背負って日々判断しています。

その判断の裏には、長年の経験の中で身についた価値観があります。

  • 「自分の数字を達成できない限り、全社について語る資格はない」
  • 「失敗するリスクを負うより、確実に成果を出すべきだ」
  • 「新しいことは上が決め、上の責任で進める方が安全だ」

こうした価値観は、会社の成り立ちや事業の性質から、自然に生まれてきたものです。

品質と納期を守り、顧客の要求に応え続けることで、積み重ねてきた信頼。
そこで確実さを重んじる価値観が育つのは、むしろ必然です。

しかも、この価値観は制度やルールによって裏支えされています。

  • 評価は、部門ごとの目標達成度で決まる
  • 承認権限は、自部門の範囲に限られている
  • 失敗は評価に響くが、挑戦したことは評価されにくい

この環境で、あえてリスクを取って他部門と新しいことを始める。それは、管理職にとって割に合わない選択に見えます。

動かないのではなく、動かない方が合理的な判断になっている。ここに、組織力強化が進まない構造があります。

Q2.今の価値観は、変えなければならないのか?

答えは「変える必要はない」です。

確実に成果を出す。自部門の責任を全うする。こうした価値観は、既存事業の売上と利益を支える土台です。

これを崩してしまえば、今の事業そのものが揺らぎます。

ここで参考になるのが、「両利きの経営」という考え方です。

両利きの経営とは、チャールズ・オライリーとマイケル・タッシュマンが提唱した経営理論です。既存事業を磨き込む「深化」と、新しい事業機会を探る「探索」。この2つを両立させることを指します。

変化の激しい時代に、多くの企業が目指しているのは、まさにこの両立です。

管理職に求められていることも同じです。

今の価値観を土台にしながら、新しい判断の軸を加える。新しい行動を試し、新しい連携のあり方に挑戦する。

観点

これまで培ってきた力

これから拡張する力

お客様との関係

要望に確実に応える力

先回りして提案する力

判断の視点

自部門の責任を全うする力

全社の視点で判断する力

部門間の関係

各部門の専門性

部門の強みをつなぐ連携

お客様の要望に確実に応えてきたからこそ、一歩先回りした提案ができる。

自部門の責任を全うしてきたからこそ、全社の視点で語る言葉に重みが出る。

「変われ」ではなく「広げよう」。

このメッセージが、管理職が前を向くきっかけになります。

Q3.挑戦を止めている価値観に、どうすれば気づけるのか?

ここが、最も難しいところです。

自分の価値観は、普段は目に見えません。長く同じ会社で働くうちに、身体に染み込んでしまうからです。

管理職本人だけではありません。経営者自身も、気づいていないことが多くあります。その価値観が、会社の強みと表裏一体になっているからです。

だからこそ、出発点はシンプルです。

「今までの価値観だけでは、変化への対応が生まれにくい」

まず、この事実を知ること。価値観の中身を特定する前に、「どこかにボトルネックがある」と認めることから始まります。

そのうえで手がかりになるのが、挑戦が止まった場面の振り返りです。

  • 新しいアイデアを思いついたのに、口に出さなかったのはどんなときか。
  • 他部門との協力を、ためらったのはなぜか。
  • 「自分が決めることではない」と感じたのは、どんな場面か。
  • そのとき、自分は何を守ろうとしていたのか。

一人で考えるだけでなく、他の管理職と対話しながら振り返ると、自分では気づけなかった前提が見えてきます。

「この価値観があったから、成果を出してこられた」。

そう認めたうえで、「これからの挑戦には、何を加えればよいか」を考えます。

Q4.会社と自分は、どんな姿を目指すのか?

自分の価値観に気づいても、それだけでは動き出せません。

次に必要なのは、どこへ向かうのかを言葉にすることです。

描く必要があるのは、次の3つです。

  • 会社のありたい姿:既存事業を守りながら、変化にどう挑む会社でありたいか
  • 自組織の役割:その中で、自分の組織はどんな役割を担うのか
  • 自分自身のありたい姿:どんなリーダーとして、組織を率いていきたいか

経営が掲げるビジョンは、そのままでは管理職にとって遠い存在です。

自組織の言葉、自分の言葉に置き換えて、初めて「自分ごと」になります。

例えば、製造部門の管理職であれば、次のような姿です。

「独自技術の安定供給の強みを生かし、新しい仕様にも積極的に取り組んで、顧客に新しい用途を提案できる組織にしたい。」

大切なのは、借り物ではなく、自分の言葉で描くことです。

自ら言葉にしたありたい姿だからこそ、上司の指示がなくても、そこへ向かって動き出せます。

Q5.ありたい姿に近づくために、何から始めればよいのか?

ありたい姿を描いたら、今の状態とのギャップを確かめます。

ここで大切なのは、一気に埋めようとしないことです。

日々の業務を着実に回しながら、少しずつ変えていく。それが現実的な進め方です。

そこで、ギャップを小さな行動に分けます。

  • 他部門の会議に顔を出し、相手の課題を聞いてみる。
  • 自部門の強みを生かした提案を、一つ出してみる。
  • 他部門と、小さな共同の取り組みを始めてみる。
  • 部下から出た新しいアイデアを、まず試させてみる。

どれも、上司に命じられて行うものではありません。
自分たちで考え、自分たちで決めた行動であることが大切です。

なぜ、小さくても実際に動くことが重要なのか。

人材育成の分野でよく知られる経験学習の考え方に、「70:20:10の法則」があります。米ロミンガー社の調査をもとにしたもので、人の成長に影響を与えた出来事の割合を示しています。

  • 70%:仕事上の経験
  • 20%:他者からのフィードバック
  • 10%:研修などの公式な学習
70:20:10の法則(仕事上の経験70%・他者からのフィードバック20%・研修などの公式な学習10%)

自分の成長実感を得られた7割は、仕事の経験からなのです。
研修や読書で学んだことは、職場で試して初めて自分のものになります。

価値観も同じです。頭で理解するだけでは広がりません。
実際に挑戦し、その手応えを得て、少しずつ新しい価値観になっていきます。

関連記事:[管理職の行動変容はなぜ起きないのか—「知っているのに変わらない」3つの理由]

Q6.挑戦を一過性にしないために、何を続ければよいのか?

最初の一歩は、踏み出せたとしましょう。

しかし、本当に難しいのは、続けることです。日々の忙しさに紛れて、いつの間にか元のやり方に戻ってしまう。

これを防ぐのが、定期的な振り返りです。

経験から学ぶ仕組みとして知られる「コルブの経験学習モデル」では、次の4つのサイクルを提唱しています。

  • ①経験する:計画した行動を、職場で実行する
  • ②振り返る:何が起きたかを、言葉にする
  • ③教訓を引き出す:そこから、自分なりの持論をつくる
  • ④次に試す:教訓をもとに、次の行動を決める
コルブの経験学習モデルの4つのサイクル(①経験する→②振り返る→③教訓を引き出す→④次に試す)

例えば、管掌役員に相談した上で、多忙な技術部門に新しい取り組みを提案してみた。すると、思いのほか協力的だった。

そこから「先に相談すると、相手も動いてくれる」という教訓を引き出す。そして、次の場面で試してみる。

このサイクルを、一度で終わらせずに回し続けます。

あわせて大切なのが、進捗を記録しておくことです。
何を試し、何が起きたのか。後からたどれるようにしておくと、変化の手応えが見えてきます。うまくいかなかったときも、どこでつまずいたかをたどり、計画を修正できます。

定期的な振り返りの場としては、1on1などが有効です。聞き手は評価や助言をするのではなく、問いかけによって、本人が自ら気づき、言葉にするのを支えます。

そして、経営の後押しも欠かせません。
組織の課題は社内の制度やルールに紐づくことが多いので、それらの見直しも必要かもしれません。

挑戦したことが評価される。失敗が許される。他部門と動くための権限がある。

こうした条件が整わなければ、管理職はいずれ元の判断に戻ってしまいます。

関連記事「研修だけ行う場合と、研修×コーチング×フォローアップとでは、体感として3倍は効果が違うと思います。」

まとめ:自ら動く管理職が、全社最適をつくる

既存事業を守りながら、新しい変化に挑む。その両立の鍵を握るのは、現場を率いる管理職です。

  • 管理職が動けないのは、意欲の問題ではない。既存事業を支えてきた価値観と、それを裏支えする制度がある。
  • 今の価値観は否定しない。その土台の上に、新しい判断の軸と行動を加える。
  • まず、挑戦を止めている価値観があることに気づく。
  • 会社・自組織・自分のありたい姿を、自分の言葉で描く。
  • ギャップを小さな行動に分け、振り返りと修正を重ねながら進める。

管理職一人の挑戦は、やがて部下に広がり、他部門との連携を生み、会社全体の変化へとつながっていきます。

人材育成で、管理職の挑戦を引き出す。経営・組織運営で、その挑戦を支える制度やルールを整える。

この両輪がそろったとき、組織力強化は掛け声から現実へと変わります。

 

筆者プロフィール

株式会社エヴリック
シニアコンサルタント
山田敬三

研修プログラム開発や人材育成(おもに仕組み化や標準化)、また、これらの研修プログラム・育成手法のコンサルティングを担当。2017年度コンタクトセンター・アワードにて「経験学習の観点で取り組む人材育成 ~継続的な管理者育成プログラム『PLATOS』」で最優秀ヘルプデスク/アウトソーシング部門賞を受賞。また、第14回日本e-Learning大賞では「高齢者応対研修」eラーニングサービスの開発で厚生労働大臣賞を受賞。

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